印刷物をつくる前に知っておくこと

去年から今年にかけて、ステッカー・日本酒のラベル・簡単な本などの印刷物をつくる仕事が増えていて、それなりに失敗からの経験値も溜まってきたので、ここいらで一度まとめてみる。

デジタルなものから形あるもののデザインもやるようになり、表現の幅が広がってきているのはいい傾向。NYの地下鉄から家庭用のコップまで幅広く手がけたMassimo Vignelli氏はこう言ってるので、当面はそれを頼りに境界線を設けずにやっていこうと思う。

Design is one - it is not many different ones. The discipline of Design is one and can be applied to many different subjects, regardless of style. Design discipline is above and beyond any style. All style requires discipline in order to be expressed. Very often people think that Design is a particular style. Nothing could be more wrong! Design is a discipline, a creative process with its own rules, controlling the consistency of its output toward its objective in the most direct and expressive way.
by Massimo Vignelli

印刷業界の方からすると甘っちょろいと思われる点があると思いますが、見当違いのことを書いていたらツッコんでいただけると喜びます。

仕様をまとめる

  • 制約:デザインに落とす前に、ステークホルダーと仕様をきっちり詰めておく。パッケージデザインなんかは、デザインする対象によっては法律(景表法・酒税法など)も関わってくるため、分野ごとの制約をきっちり抑えておく。この辺はAppleのガイドラインなどと感覚的には同じ。デザイナーは弁護士ではないので法律まわりは発注者からの助言を鼻ほじって待つ、というわけにもいかないのでとりあえず全体像は掴んでおく。その後で、わからないことは担当者に聞く。その人も知らなければ知ってる人を教えてもらう。ここを早くやらないと、あとで「これが足りないあれが足りない」連鎖が起こるので、誰も幸せになれないのは何事も同じ。
  • 予算:発注側も把握していない場合があるため、こちらで提示できる必要がある。依頼されたものプラスαで提案したい(+パッケージの箱のデザインなど)ときもあると思うので、その場合の可能性もトータルで見通しをつけておく。また、紙種・厚さ・加工の有無・刷色で価格も上下する。優先度をつけて、予算の範囲内でもろもろ諦めていく。
  • スケジュール:印刷業者の営業日や納品日が影響するので、そのあたりも加味して日数を算出する。「この日までに頂戴」とわりと短期で依頼されるときは、即納に対応できる印刷業者を選ぶことになるため紙質や質に制限がかかることを伝え、裏で印刷業者と掛け合ったり、製作をがんばる。明らかに無理だったらその旨を丁重に申し上げる。

印刷会社を知っておく

戦略を練る上で、手元にあるカードの種類が多いに越したことはない。どれだけいい印刷会社を知っていても、1店しか知らないと特殊な要望に急に答えられなくなるので、「急用の時は〇〇印刷」「紙質にこだわるときは〇〇工房」などと自分なりにパターンを持っておく。案件を通して印刷会社を知るのがベストだけどそれにも限りがあるので、自分のお金を投下してその幅を増やさないとなと思う。カレンダーとか自分用ノートでもつくろう。 以下、お願いしたことのある印刷会社さん。

  • アクセア:安いし何より24時間やってる。紙種や製本に制限があるものの、納品までが超速い。
  • 激安名刺:とにかく安い。明快なサイト名とは裏腹に、社名はすこしかわいげな「株式会社名刺屋さん」。
  • マヒトデザイン:納期が速く、値段の割に紙種が多い。
  • グラフィック:紙種豊富で、自分的安心感のある印刷会社。
  • マツダプリント:納期が速く、お安い。無料実物サンプルがあるのが強み。電話での対応もマル。友だちもここでつくった1そうなので、今のところサンプル数2。
  • デジタ:IT業界御用達らしい印刷会社。2
  • 123トロフィー:マグカップつくるときにお世話になった。

無料サンプルもらっておく

印刷会社によって色のノリにクセがあるらしいので、無料サンプルをもらっておく。そうすれば色校の手間も最小限に抑えられるはず。実物無料サンプルを送ってくれるところなんかは、ベスト。

CMYKを知る

という自分もまだまだわからないことだらけ。もちろん色域が全く違うので、RGBで得た色味は近似値に変換されてしまう。欲しい色を出すのがなかなか難しいし、紙種によっても色ノリが違う。リッチブラックが数種類あるとか知らなかった。このへんはもっと試行錯誤する。

裁断方法を細かく伝える

たとえば、意図的に四隅均等に余白を設けている場合。設計上は余白が揃ってきれいなのだけど、最終成果物は裁断やプリンターの設定に左右されることを知っておく。特に、A3以下のサイズで依頼するときは大きな紙に面付けして印刷されるため、プリント/裁断の過程でどうしてもずれる場合がある。業者のクセもあるので、余白の再現性を高めるなら備考欄に詳細に記載して、印刷者の気に留めてもらう必要がある。もちろん、モックを持って印刷所に出向き、意向を伝えるのがベスト。

印刷業者のサイトを隅まで細かく読む

もちろん、自分が依頼したいサイズの項目だけでいい。どういうオプションがあって、それぞれどういう意味なのかちゃんと理解しておく。わからないとき(というか印刷業者さんのサイトのほとんどが、理解するのが大変なつくりになってる)は、電話して聞く。泥臭いけどこれ大事。1度や2度じゃ終わらないケースがほとんどなので、個人ケータイで電話する場合はLINE電話が重宝します。業者が登録されていれば携帯から無料で(何度でも、何時間でも!)通話できる。

予算を抑える方法を知る

A5を1000枚印刷するのと、A5サイズのデザインをA4に面付けして500枚印刷するのでは予算が大きく変わる。塗りたしがあるなどの難しい状況や印刷所の技術にも関わるので、コストとクオリティーを天秤にかけてうまくやる。裁断コストや、印刷所によっては手で裁断する場合もあるので、その時の注意点など細かく聞き出しておく。「ルート長方形」について知る。「用紙サイズ A4・B4のなるほど!」というサイトにこの辺りうまくまとまってます。

もっと勉強しましょう

フェーズにもよると思うんだけど、スタートアップに籍をおく以上、デザイナーとして「デザイン」に関わることはすべて全うできないといけない。そういう環境だし、そいういうモチベーションで常にいたいと思っている。UXの設計だけできればいいものでもないし、JavaScriptで気持ちいいアニメーションがつくれるだけでもいけない。すべてに精通することは不可能だと知ったうえで、一通り「わかる」のは大切だと思う。「わかる」の深度を深くするためにはそれなりの時間が必要なので、うまく選別して各分野嗜めるようになりたい。

印刷系の知識がほぼなかったので、去年は本をたくさん読みました。以下、勉強になったものリスト。

  • デザインのひきだし15:これ一冊あれば印刷の全体像がわかる優れもの。レンチキュラー(という印刷技術もこの本で知った)プリントでレイアウトされた表紙が、懐かしくもあり感動的。
  • デザインのひきだし21:オフセット印刷について詳しく理解できます。笑われるかもしれないが、これでオンデマンド印刷とオフセット印刷の違いを知りました。
  • 編集デザインの発想法:エディトリアルデザインの必読書。最終章のQ&Aがとてもいい。「デザイナー」と「編集者」がどうやってうまく協働していけばいいのかが書かれていて、読み進めるうちに編集者をエンジニアに変換して読んでいる自分に気づく。(「デザイナーです。どうしたら編集者とうまくやることができますか?彼らのことがよくわかりません。」は、とりあえず立ち読みして読んだほうがいい。)
  • InDesign 標準デザイン講座:InDesignのあらましは、これでサラッとやった。チャプター9までダーっと集中的にやれば、ある程度InDesignはつかえるようになる。
  • 組む。InDesignでつくる、美しい文字組版:「使える」の質を上げるために読んだ。プロがどこにこだわるのか、その視点をこの本で補う。
  • 神速 InDesign:あまりつかわなかったかな?必要あらば本棚から取り出す感じ。神速シリーズはなぜか全部持ってる。
  • 特殊印刷・加工DIYブック:予算がなくてもできることってあるんだな、と新しい視点を気づかせてくれる本。
  • 印刷・加工DIYブック:上記のシリーズ物。

あとは、なんだかんだ言ってLynda.comのグリッドに関する講義がよかったりします。日本のものよりも海外のレイアウトが好きなので、夜な夜な蔦屋書店でそれ系の書籍を漁るのもおもしろ味がありました。あたらしいことをはじめると、自分が今まで持っていた視点が変化するのがたのしい。金額面やつくったものは、許可が降り次第公開していけたらなと思います。みなさん御用達の印刷会社や関連書籍なんかあれば、教えてください。